大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

旭川地方裁判所 昭和34年(行)1号 判決 1960年9月16日

原告 石井義勝

被告 上川税務署長

訴訟代理人 菊地美津雄 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告は、「被告が原告に対して昭和三一年一一月六日なした原告の昭和三〇年度の総所得金額を金五三四、一七三円とする再更正処分のうち総所得金額を金三四二、〇六二円と変更する。訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。」との判決を求め、

被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二、請求の原因

一、原告は肩書住所で農業を営む者であるが、昭和三一年三月二五日昭和三〇年度の総所得金額を金三四二、〇〇〇円とする同年度所得税の確定申告をした。ところが、被告は同年七月二四日右確定申告に対し総所得金額を金五二五、二四八円とする更正処分をなし、その旨原告に通知したので、原告はこれを不服として同年八月二七日被告に対し再調査の請求を行つた。しかるに被告は同年一一月六日右確定申告に対し総所得金額を金五三四、一七三円とする再更正処分をなし、かつ右請求を棄却して、その旨原告に通知してきた。そこで、原告は同年一一月二七日札幌国税局長に右棄却決定を不服として審査の請求をしたところ、右審査請求は昭和三二年三月一〇日棄却され同年四月五日その旨通知を受けた。

二、しかしながら、原告の昭和三〇年度の総所得金額は、別表「昭和三〇年度所得収支計算書」記載のとおり、金三四二、〇六二円にすぎない。従つて被告のなした原告の昭和三〇年度の総所得金額を金五三四、一七三円とする再更正処分のうち右金額を超える部分は違法であるから、これを所得金額三四二、〇六二円と変更する旨の判決を求める。

第三、被告の答弁および主張

一、

(一)  原告主張第二、一の事実中、原告が札幌国税局長に対し審査の請求をなした日は争う、すなわちその日は昭和三一年一二月二四日である。その余の事実はいずれも認める。

(二)  同二の事実はこれを否認する。

二、被告のなした再更正処分は、次のとおり適法である。

(一)  原告はその主張の日に昭和三〇年度の確定申告書を提出したが、その記載内容自体根拠に乏しく、右申告に際して提出された収支計算書のみに基いては到底その所得の実態を把握できず、その他右申告書の記載の適正を証明し得べき帳簿等の資料を有しなかつたので、被告は已むを得ず、かかる場合の所得算定の方法として所得税法第四五条第一項によつて許容されている推計々算の方法、すなわち農業所得標準率を適用して後記のとおり原告の当該年度の所得を推計して更正処分をなし更に又再更正処分をなしたものである。

(二)  農業所得標準率は、耕作物等の種類毎に一反当りの所得を算定したものであつて、きわめて慎重に作成された公正妥当なものである。すなわち、税務当局は、毎年各市町村毎に概ね地力等級に応じこれを五地帯に区分類し、その区分毎にその市町村の平均耕作反別の中庸となる農家四戸宛を選定してこれを標準農家となし、右標準農家のその年分の総必要経費を調査しこれを耕作反別で除し五地帯の反当り経費を平均したものをその市町村の中庸反当り必要経費とし、又収入金額についてはその市町村の平均収穫量を基礎にして総収入金額を求め、これをその市町村の耕作反別で除して反当り収穫量並びに収入金額を算出し、以上の如くにして求めた反当り収入金額から反当り必要経費を控除したものがその市町村に於ける反当りのいわゆる所得標準率であり、而してこの所得標準率の適用についてはこの反当り所得金額を基準として更に各人毎の収穫量に対応する間差所得標準率を作成しこれに各人の耕作反別を乗じたものを以てその農家の総所得金額を算出するものであつて右標準農家の選定、必要経費の査定等については、当該市町村および農業団体の意見聴取を行い、その納得を得るなどして合理的に作成するものである。また右所得標準率を適用して算出された一人別総所得金額の公正妥当性につきさらに当該市町村および農業団体の幹部に意見を聴し、最終的に市町村及び農業団体の納得を得るものである。

(三)  右農業所得標準率を適用して原告の昭和三〇年度の総所得金額を次のとおり算定した。

(1) 農業の所得金額

(A) 田畑家畜その他の附随収入

1、田の所得金額 金六三五、一九三円

次の(イ)および(ロ)の合計金額である。

(イ) 作付面積四三五畝のうち六五畝については、その反当り収穫量二五四〇合を基準として、その適用標準反当り所得金額一六、六七五円なる所得標準率を適用すると、この分の田の所得金額は金一〇八、三八七円となる。

(ロ) 残余の作付反別三七〇畝については、その反当り収穫量二二六〇合を基準として、その適用標準反当り所得金額一四、二三八円なる所得標準率を適用すると、この分の田の所得金額は金五二六、八〇六円となる。

なお、右のように原告の反当り収穫量を算定するについては、東川農業委員会から被告に答申のあつた原告の反当り収穫量に対し、農林省統計調査事務所とか東川村役場等から蒐集した同村の反別、収穫量に関する資料によつて合理的に算出されたいわゆる実際の「なわのび」一〇三、三パーセントを乗じた範囲で推計したものである。

2、畑の所得金額金五、一〇四円

作付面積二九畝に対し、反当り所得金額一、七六〇円なる所得標準率を適用して得た金額。

3、自家用蔬菜畑の所得金額 金一〇、三六〇円

作付面積一〇畝に対し、反当り所得金額一〇、三六〇円なる所得標準率を適用して算定した金額。

なお、以上の1乃至3の原告所有の田畑の反別は、東川村役場固定資産税台帳によると、合計六町一反四畝一歩であるところ、本件課税の対象となつた田畑の反別は右のように合計四町七反四畝にすぎない。勿論右台帳登載の反別には宅地や畦畔が含まれてはいるけれども、通常畦畔地は耕作反別の一割五分ないし二割宅地は一反歩程であるから、実際の反別は課税対象の反別より可成り上廻つているのであつて、被告が認定した前記田畑の各作付反別は妥当なものである。

4、家畜の所得金額 金二、四〇〇円

次の(イ)および(ロ)の合計金額である。

(イ) めん羊の所得金額 金一、五〇〇円

めん羊一頭につき、一、五〇〇円なる所得標準率を適用して算出した金額。

(ロ) にわとりの所得金額 金九〇〇円

にわとり二羽に対し、一羽に対する所得金額四五〇円なる所得標準率を適用して認めた金額。

なお、原告がかりにめん羊一頭を飼育していなかつたとしても、にわとり八羽を飼つていたのであるから、これに右標準率を適用すれば金三、六〇〇円となり、被告の算出した右(イ)および(ロ)の合計金二、四〇〇円を上廻るものである。

5、俵代収入 金五、六〇〇円

原告が昭和三〇年度に供出した米穀五六石に対し、一石当り金一〇〇円の収入として計算した金額。

6、追加払金収入 金四、二〇〇円

前年度の供出分に対する価格調整分の収入金である。

(なお、右1乃至6の外原告は東川村農業共済組合から昭和二九年度産米に対する減収加算金三七、九五〇円を昭和三〇年一月一七日に受領し、これを東川村農業協同組合に対する原告の預金口座に振込んでいるものであるから、従つて右金額は当然原告の同年度の収入として所得金額に加算さるべきものであるが、本件更正処分及び再更正処分にはこれを加算していない。)

右1乃至6の合計金六六二、八五七円。

(B) 特別控除額

所得標準率作成の際必要経費として計算されておらず、従つて、実際の支出金額を所得金額算定に当つて控除さるべきものとされている経費。

1、土功組合費 金二一、五六〇円

2、雇人費   金五四、〇〇〇円

3、予約減税額 金六一、六〇〇円

4、冷害利子      四四九円

合計   金一三七、六〇九円。

(C) 従つて、原告の昭和三〇年度の農業所得金額は前記所得金額六六二、八五七円から右の特別控除額一三七、六〇九円を差引いた金五二五、二四八円となる。

(2) 給与所得金額

原告は東川村々会議員として昭和三〇年中に支給を受けた歳費金一〇、五〇〇円から一五パーセントの金一、五七五円を控除した金八、九二五円の所得があり、これは叙上の農業所得金額に加算されるべきものである。

なお、その後実際に調査したところ、原告の当該年度の歳費は金一五、〇〇〇円であつて、原告はそのうち同年中に少くとも金一三、九七三円を受領しているものであるから、被告の認定した歳費を可成り上廻るわけである。

(3) そうすると、原告の昭和三〇年度の総所得金額は、前記農業所得金額五二五、二四八円に右給与所得額八、九二五円を加算した少くとも金五三四、一七三円であることが明瞭であるから、本件再更正処分はなんら違法ではない。

(四)  次に、資産負債増減調査の方法によつて、原告の昭和三〇年度の総所得金額を算定したが、これによつても、次のとおり本件更正処分は適法である。

即ち被告は、原告の再調査の請求に対し、前述のように収支計算の方法によつては原告の総所得金額を算出できなかつたので上記の所得標準率適用による原告の当該年度分の所得算定に誤があるか否かを検討してその妥当であることを確認すると共に所得税法第四五条第三項による推計々算の一方法、すなわち納税者の有する財産についてその期首と期末における財産額を対照しその差額に必要経費以外の支出を加えて所得の算定をなすいわゆる資産負債増減調査の方法によつて、原告の当該年度の所得を推計したところ、別表(二)記載のとおり、その総所得金額は金五四八、九七八円であり、また原告の審査の請求に対して、札幌国税局協議団において、同じく資産負債増減調査の方法によつて、原告の当該年度分総所得金額を算定したところ、別表(三)記載のとおり、その総所得金額は金五七二、六六八円であつて、右金額はいずれも本件再更正処分の金額を上廻るものであるから、この点からみても、被告のなした本件再更正処分にはなんらの瑕疵もないものというべきである。

第四、被告の主張に対する原告の答弁

一、第三、二の(一)の事実につき。

確定申告書の記載が根拠に乏しくかつその適正を証明する資料がなかつたとの点は否認する。すなわち、原告が確定申告をなした際、当該年度の収支の状況を明らかにするための資料として、収支計算書に農業委員会の出荷証明書、東川村々長の米の出荷指令書及び同証明書並びに食糧事務所の時期別出荷証明書等を添えて被告に提出したものであつて、右確定申告書の記載の適正を証明すべき資料があつたものである。従つて右各資料を無視して、推計々算の方法によつて原告の当該年度の総所得金額の算定をすることは許されない。

二、第三、二の(二)の事実につき。

農業所得標準率の合理性を争う。すなわち、その作成にあたり農業関係者の意見聴取をなしているとは考えられず、また東川村の農地は肥沃の度合が数段階に分かれており殊に一部は公共事業として軌道客土工事を大規模に実施して顕著な効果をあげているのに反して原告所有農地は冷水が通過し或は漏水甚だしい常習不稔の最低生産地帯たる部分が多く、生産力が著しく異なるのに反して逆に必要経費は原告の所有農地の方が客土工事実施地帯を上廻つているもので、これらの差異を無視して作成された右所得標準率を適用することは不公正不合理である。

なお、被告は自ら原告の当該年度の所得算定の資料を確保せずしてその一切を東川村に代行させたものであつてかかる無責任な税務行政の結果たる所得算定は杜撰きわまるものであつて違法である。

三、第三、二の(三)の事実につき。

(一)  右(三)の(1)の事実に対し、

(1) 田畑の各作付反別収穫量はいずれも争う。すなわち、原告所有の農地は不作地および畦畔地を差引けば田の作付反別は三一六畝と五六畝にすぎず、その土質は悪く村での最低生産地帯であつて、反収は二石以上ない。畑の作付はない。自家用蔬菜の作付反別は七畝にすぎず、かつ同地は蔬菜用作付に不適であつて、その収穫は不明である。

(2) めん羊一頭を飼育していたことは否認する。にわとりは七、八羽飼つていたものである。

(3) 原告の昭和三〇年度米穀供出量が五六石を超える六〇石及び追加払金収入が金四、二〇〇円であることはいずれも認める。

(4) 土功組合費が金二一、五六〇円であることは認める。

(なお、減収加算金は前年度に課税さるべきもので当該年度に課税さるべきものではない。)

(二)  右(三)の(2)の事実に対し、

東川村々会議員の歳費を受領したことは認めるが、その額も僅少であつて選挙費用交際費等に支出されて所得とはならぬばかりでなく他の同議会議員はこれに課税されていないものであり、原告にのみ課税するのは不公正且不当である。

四、第三の二の(四)の事実につき。

前記のように、原告は収支の状況を確認するに足りる資料を有していたものであるから、資産負債増減調査の方法による所得の算定もまた許されない。また、右方法による算定の係数が全く一致しない点からみても、なんら妥当性のないものである。各係数はすべて争う。

第五、証拠関係<省略>

理由

第一、原告が肩書住所で農業を営んでいること、昭和三一年三月二五日昭和三〇年度の総所得金額を金三四二、〇〇〇円とする確定申告をなしたところ、被告は同年七月二四日総所得金額を金五二五、二四八円とする更正処分をし、その旨原告に通知してきたので、原告はこれを不服として同年八月二七日被告に対し再調査の請求を行つたが、被告は同年一一月六日総所得金額を金五三四、一七三円とする再更正処分をなし、かつ再調査の請求を棄却し、その頃その旨を原告に通知してきたので、原告は同年一一月二七日札幌国税局長に対し右棄却決定につき審査の請求をしたところ、右審査請求は同三二年三月三〇日棄却されて同年四月五日その旨原告に通知されたことはいずれも当事者間に争いがない。

しかして、成立に争いない甲第二号証、乙第一号証の一および二と証人安達秀の証言に徴すると、原告が札幌国税局長に対し再調査請求棄却の決定につき審査の請求をなしたのは昭和三一年一一月二七日であると認められ、かつ成立に争いない甲第一号証、乙第四号証、同第五号証および証人花島渡の証言(第一回)によると、本件再更正処分は更正処分の所得金額五二五、二四八円に村会議員の給与所得金八、九二五円を追加して当該年度の所得税額を決定したほかは、右更正処分の内容と全く同一であることが明らかであり、右審査請求をなした同年一一月二七日当時は既に本件再更正処分によつて更正処分が効力を失つていたものであるからかかる場合は、原告のなした前記審査請求には本件再更正処分に対しても不服申立をなす趣旨を含んでいたものと解するのが相当である。

ところで、本件再更正処分に対しては再調査の請求を経ていないことは弁論の全趣旨に徴して当事者間に争いがないところと認められるが、証人花島の証言(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、被告が原告の再調査請求に対し、更正処分の当否を調査したが結局右更正処分を妥当と認めるとともに、なおその調査の際議員としての給与所得の存在が判明したので前記趣旨の本件再更正処分をなすことにして、前述のように右調査請求が棄却されると同時に本件再更正処分のなされたことが首肯されるのであつて、このようなときは、更正処分の金額の範囲内においては再更正処分に対しさらに再調査請求をしても当然棄却されるものと推認されるわけであるから、本件再更正処分に対しては再調査の請求をなさず直ちに審査請求をなし得る正当な事由があるものというべきである。

しかして、本件訴が再更正処分に対する審査請求に対する決定を経ずに提起されたことは成立に争いない乙第二〇号証および証人安達の証言で明らかであるが、この場合の出訴期間の終期は審査の請求をなして三箇月を経過した日から起算して六箇月と解すべきところ、本訴が右期間内に提起されていること本件記録に徴して明瞭である。

そうすると、本訴は、訴願を経由し出訴期間内に適法に提起されたものといわなければならない。

第二、よつて、本件再更正処分が適法か否かにつき判断する。

一、被告が昭和三〇年度の原告の総所得金額を算出するに推計々算の方法によつたことは当事者間に争いないところ、原告は、右のような推計々算の方法によつて総所得金額を算定するのは違法である旨争うので按ずる。

課税標準となる所得金額を算定するためには、原則としていわゆる収支計算の方法によるべきことは勿論であるが、その計算の基礎となる正確詳細な資料が存在しないか或いは不十分な場合には、推計々算の方法によつて所得を算定し得ることは所得税法第四五条第三項によつて明らかである。

しかして、原告が前記確定申告に際し、収支計算書を提出したことは当事者間に争いがないところ、成立に争いない乙第一二号証の一、二、公文書であるからその成立の真正を認められる甲第五号証、前掲乙第二〇号証、証人花島渡の証言(第二回)により成立の真正を認められる乙第一八号証並びに証人花島渡(第三回)および同中島長の各証言によると、右確定申告のなされた原告の昭和三〇年度の総所得金額と被告算出の総所得金額との間に相違があつたので、被告としては原告の修正申告を必要と考え、なお右確定申告書には米穀の事前売渡数量に関する明細書および昭和三〇年度産米時期別供出数量に関する証明書等が添付されてはいたが、勿論それだけでは資料が不十分であつたので、他に所得算定のための帳簿等の資料の提出を促がしたけれども、原告からなんらの資料の提出もなかつたこと、前記更正決定に対する原告の再調査の請求に対し、上川税務署係官訴外西明勝裕が原告宅を訪れ、当該年度の所得を算定するに必要な資料の提示を求めたところ、僅かに預金通帳とか昭和三〇、三一年中の若干の期間内だけ記帳した金銭支出簿などを提出したにすぎなかつたこと及び原告の審査の請求に対し、札幌国税局協議団の係員である右安達が原告宅に調査に行つたときも右と同様、当該年度の収支の実態を確認する資料を得られなかつたことが認定され、以上の各認定を左右する証拠はない。そうだとすれば原告の昭和三〇年度の所得金額につきこれを収支計算の方法によつて把握することは到底不可能であつたものというべきである。而して原告が、本訴において所得認定のための資料として提出した成立に争いがない甲第四号証および前出甲第五号証によつては到底その所得を算定できないし、他に前記認定を覆す証拠はない。そうすると、結局に於て原告は当該年度の収支の実態を明確ならしめる資料を有しないわけであるから、推計々算の方法によつて当該年度の所得を算定されてもやむを得ないところといわなければならない。

二、而して被告が原告の当該年度の所得金額を算出するにつき推計々算の方法としていわゆる農業所得標準率を適用したことは原告に於て明らかに争わないところ、右農業所得標準率によつて原告の当該年度所得を算定することの当否につき次に検討する。

(一)  まず、成立に争いがない乙第七号証、同第八号証の一、二、同第一一号証、同第一四号証および証人花島の証言(第二、三回)に徴すると、被告が本件所得推計に適用した農業所得標準率は、その所得金額を田については、反当り収穫量二五四〇合と同二二六〇合(原告の反当り収穫量がこのように認定されるべきこと後記の通りである)を各基準として、それぞれ反当り金一六、六七五円と金一四、二三八円、畑反当り金一、七六〇円、自家用蔬菜畑反当り金一〇、三六〇円、めん羊一頭当り金一、五〇〇円、にわとり一羽当り金四五〇円としたものであることが認められる。

(二)  ところで、原告は右各所得標準率の合理性を争うから考える。

前示乙第七号証、同第八号証の一、二、同第一一号証、同第一四号証、成立に争いのない乙第一五号証および証人花島(第一乃至第三回)、同野村信義(第一、二回)の各証言(いずれも後記信用しない部分を除く)並びに弁論の全趣旨を綜合すると次の各事実が認定され、右証人花島、同野村の各証言中後記認定事実に反する部分はたやすく信用できず、その他これを覆すに足る証拠はない。

(1) 田畑の各所得標準率について。

(イ)札幌国税局は、毎年、北海道全市町村から中庸となる三箇市町村(昭和三〇年度は岩見沢市、名寄市、風連町)を選択し、さらにその市町村毎に概ね地力等級に応じて最高、上、中、下、最下位の五地帯に区分類し、その区分毎にその市町村の平均耕作反別の中庸となる農家を四戸宛選定し、これを標準農家と定め(この標準農家の選定については当該市町村、農業団体等の意見を聴して決定する)、管内の各税務署と共同で右標準農家の経営の実態、収入面、支出面その他農業経営全般について、六、七月頃および一〇月の二回にわたり、普通は係官一、二名で一戸につき大体二、三日間程度を費して、その実態の精密調査をなして資料を集め、各税務署長が一一月から一二月のはじめ頃にかけてこれらの資料の妥当性につき各市町村、農業団体の意見を求め、また同国税局においても、その妥当性について全道の市町村、農業団体の意見を聴し、同国税局で調整したうえ、さらに国税庁における全国農業所得標準率会議で検討され、その後同国税局で全道各地の特殊性を考慮して税務署長会議で検討するなどして一応全道一般に適用される所得標準率が耕作物の種類毎に作成されること、(ロ)かくして作成された所得標準率を東川村に適用するために、上川税務署において、さらに同村の役場、農業団体、一般の肥料販売店等から同村全体の経済資料を蒐集し、右全道一般の標準率を同村の特殊性に応じて修正し、しかもその際に同村の農業団体の意見を参考として(尤も同税務署と右の団体等と完全な意見の一致がみられなかつたとしても)慎重に作成され、その後同村役場、各種農業団体に公開されていること。(ハ)但し畑の所得標準については、東川村が特殊作物がないため主要作種別の各反当り所得金額の平均額として算出された畑の統合所得標準率を適用するのが相当として同村より要請があり結局右統合標準率が採用されるに至つたこと。

(2) 自家用蔬菜畑の所得標準率について。

これも前記(イ)と同様にして作成されること、尤も全道一般に適用されるものであるため、前記(ロ)のように東川村全体の経済資料に基いて特に東川村だけに適用すべきものとしては作成されないが、その公開適用にあたつては最終的に同村、農業団体の納得を得ているものであること。

(3) めん羊およびにわとりの所得標準率について。

札幌国税局において、毎年全道の税務署から家畜の飼育に特殊性を有している地域を管轄している税務署を各家畜の種類別に数署づつ選択し、その各管内における農家の家畜飼育の実態について調査を命じ、当該税務署は管内における農家の家畜飼育による収入、経費などその家畜飼育全般について実態調査をなし、同国税局はかくして蒐集された資料に基いて各市町村、農業団体等の意見を徴して最終的に全道一般に適用すべきものとして各家畜の種類別に作成公開するものであり、かつこれが東川村に適用されるについては、同村、農業団体の納得を得ているものであること。

(4) 以上の各所得標準率につき。

東川村についても、税務署の決定反別収穫量等が危険度を見込んで実際以下に定めてあるため、それが適用されて推計された所得額は特殊の例外のないかぎり、実際の所得額以下になるのが通例であること。また殆どの納税者は税務署のしようようする所得標準率によつて所得を算定し申告していること。

しかして、以上の認定事実からすれば、前掲各所得標準率は、特にその適用を不当とするに足りる特段の事情のないかぎり、農業所得を推計するため合理的なものと解するのが相当である。

そうすると、前記各所得標準率によつて原告の当該年度の農業所得を算定することもまたやむを得ないものと考えるほかない。

三、そこで、被告がなした原告の当該年度の所得金額の算定に誤りがないかどうかを検討する。

(一)  農業の所得金額

(A) 田畑家畜その他の附随収入

(1) 田の所得金額

(イ) 作付面積、反当収穫量について。

被告は原告の作付面積を六五畝と三七〇畝、これに対する反当り収穫量をそれぞれ二五四升、二二六升と主張し、その各係数は次の事項によつて決定されたことが認められる。すなわち、前出乙第一四号証、成立に争いない乙第九号証、同一〇号証、同第一三号証及び証人野村(第一回)、同花島(第一、二回)の各証言を併せ考えると、(I)被告は昭和三〇年度の所得を決定するため、東川村役場に原告を含め同村の各人の田の反別収穫量の申告を求めたところ、同村から当初原告のそれは六三畝と三五六畝、これに対する反当り収穫量は二五二升、二二四升と答申があつたが、被告が農林統計調査事務所公表の資料等により把握していたそれとの間に喰違いがあつたので、更に修正を申入れ、同村と協議検討を重ねた末、最終的に同村から被告主張の前記反当り収穫量を妥当と認めて答申されたこと、(II)なお、収穫量については、納税者から被告に対し正確な申告の行われ難いところ(実際より少く申告する)から、被告は右統計調査事務所公表の反別収穫量とか同村役場等から提出のあつた資料に基き合理的算出方法により実際の「なわのび」一〇三・三パーセントを算定し、これに準拠し出来るかぎり正確な申告の行われるよう同村に申入れ、これに従つて同村から最終的に前記係数を答申したものであること、(III)同村においては、毎年春頃各実行組合を通じて各個人別に作付面積等の生産計画を申告させ、さらに収穫期にその作付等の実態を農業委員会、各実行組合等が調査して、同委員会が最終的に個人毎の作付反別を把握しているものであるが、右(I)のように被告から諮問のあつた際には、村民の税負担を少しでも軽減するようにとの配慮から実際に把握している数字よりも下廻つて、原告の田の作付反別収穫量を報告したところ、被告からの修正申入れによつて、前記のように妥当な範囲で修正答申したものであることが各認定され、これを左右する証拠は存在しない。

そして、前顕乙第一八号証、成立に争いがない同第二一号証、同第二二号証と野村証人の証言(第二回)によると、右のごとくにして決定された原告の田の作付反別はなおかつ実際のそれよりも下廻つていることが推測され、これを覆す別段の証拠はない。

しかして、右各認定事実を併せ考えると、原告の当該年度の作付反別は六五畝と三七〇畝で、これに対する反当り収穫量はそれぞれ二五四升と二二六升であると認めるのが相当である。

(ロ) そこで、右作付反別六五畝に対しては、適用標準反当り収穫量二五四升に対する反当り所得金額一六、六七五円なる前示所得標準率を適用すると、その田の所得金額は金一〇四、三八七円(円未満切捨)となり、作付反別三七〇畝に対しては、適用標準反当り収穫量二二六升に対する反当り所得金額一四、二三八円なる前記所得標準率を適用すれば、その田の所得金額は金五二六、八〇六円となるから、従つて田の所得金額の合計は金六三五、一九三円と認められる。

(2) 畑および自家用蔬菜畑の所得金額

(イ) 畑および自家用蔬菜畑の作付反別。

被告は、それぞれ二九畝、一〇畝と主張し、これは次のようにして決定されたことが肯認される。すなわち、前出乙第八号証の一、同第一三号証、同第一四号証と野村証人の証言(第一回)に徴すると、前述のように、同村においては、毎年春頃に各実行組合から各人毎の生産計画として田畑等の作付面積を報告させているが、これによると原告の畑の作付反別が三九畝であつたこと、ところが課税の対象となる所得を算定するについて、自家用蔬菜の所得が畑作中最高となるため、実際にこれを耕作していても申告がないか或いは不正確であることが多く、従つてその申告をそのまま採用することは税負担の公平を欠く結果を生ずるため、同村においては、税負担の公平妥当を計るための考慮から、自家用蔬菜は家族人員数に応じて必要とされる量が異るのが通例であるところから、家族数を基礎として各人の申告した畑作のうち幾分かを自家用蔬菜の作付面積として抽出するのを妥当と認め、原告の家族数に応じて、自家用蔬菜の作付反別は一〇畝と定め、従つてそれ以外の畑作の反別は三九畝からこれを控除した二九畝と決めて、これを被告に答申しその諒解を得たことが認定され、これを左右するにたりる証拠は存しない。

従つて右認定事実からすれば、原告の当該年度の畑の反別は二九畝、自家用蔬菜のそれは一〇畝と認めるのが相当である。

(ロ) よつて、前掲の畑作反当所得金額一、七六〇円なる所得標準率を適用すると、その所得金額は金五、一〇四円となり、自家用蔬菜の反当り所得金額一〇、三六〇円なる所得標準率を適用すれば、その所得金額は右の金一〇、三六〇円と算定される。

ところで、原告は田、自家用蔬菜畑の土質は劣悪であつて、右所得標準率の適用は不当である旨争うところ、証人野村の証言によれば、その土地の一部に可成り土質の低格の箇所があるようにも窺われるけれども、これのみによつては未だ右各所得標準率の適用を不当とするものと認めることはできないし、他に右主張を推認し得る証拠はない。

(3) 家畜所得金額

(イ) 被告は、原告が当該年度にめん羊一頭を飼育していたと主張し、前出乙第一号証の記載はこれに照応するが如くであるが、証人中島、同野村のこの点に関する各証言に対比すれば、にわかにこれを措信できず、他に右主張を肯認するにたる証拠はない。

そうすると、原告がめん羊一頭を飼育していたものとして、その所得を算定するのは誤りであるというべきである。

(ロ) 然しながら当時の東川村に於て飼育されていた家畜の総数は把握されていたが各戸毎の飼育数については明確でなかつたため一応農家としては家畜飼育の副業を有するものとして総数を六割乃至八割に減じてこれを所得に換算すると平均して各区毎にめん羊一頭、にわとり二羽程度が飼育されていることになつたもので必ずしも右数値が実際の飼育数と一致するものではないのみならず原告が当該年度ににわとり七羽を飼育していた事実は当事者間に争いのないところであるから、これに前記一羽当り所得金額四五〇円なる所得標準率を適用すると、その所得金額は金三、一五〇円となつてめん羊一頭及びにわとり二羽飼育の場合の所得金額二、四〇〇円を超えることが明らかである。

(4) 俵代収入

原告が当該年度に少くとも五六石を供出したことは当事者間に争いがなく、証人中島の証言によると、政府は右供出した際原告に対し一石当り金一七五円を支払つているが、右の石当り金一七五円中には手数料その他の経費が含まれているので、これを差引いて合理的に算定すると一石当り金一〇〇円の収入があつたものと推認できるから、俵代の総収入は金五、六〇〇円と認定される。

(5) 追加払金収入

右収入が金四、二〇〇円あつたことは当事者間に争いがない。

右(1)乃至(5)の合計金六六三、六〇七円。

(B) 特別控除額

(1) 土功組合費金二一、五六〇円。これは当事者間に争いがない。

(2) 雇人賃金五四、〇〇〇円。これまた当事者間に争いがない。

(3) 予約売渡減税について。

成立に争いない乙第一九号証と証人花島の証言(第一、二回)によれば、米穀の事前売渡申込制度によつて供出した場合は、売渡減税として所得金額から特別控除を受けるが、その額は所得標準率の適用によつて所得金額を算出するときには、一石につき金一、一〇〇円の割合による金員を予約減税として控除することになつていることが首肯されるところ、右各証拠と成立に争いがない乙第一二号証の二によると、右制度の適用をうける原告の当該年度の供出分は五六石であることが明らかであるから、本件につき予約売渡減税として特別控除されるべき金額は金六一、六〇〇円であることが認められる。

(4) 冷害利子金四四九円。これは証人花島の証言(第一回)によつて肯認される。

合計 金一三七、六〇九円。

(C) 以上の次第であるから、原告の昭和三〇年度の農業所得金額は前説示の田畑家畜等の所得金額合計金六六三、六〇七円から右の特別控除額合計金一三七、六〇九円を差引いた金五二五、九九八円となる。

(二)  村会議員としての給与所得金額

成立に争いがない乙第二三号証によると、原告は当該年度に村会議員としての給与金一三、九七三円を受領したことが認められるから、そのうち課税の対象となる給与所得金額は改正前の所得税法によりその一五パーセントにあたる金二、〇九六円(円未満切上げ)を控除した金一一、八七七円で本件再更正決定中の査定金額八、九二五円を超えるものであることが明らかである。

なお原告は東川村々会議員中原告を除いた他の議員についてすべて右給与が所得金額に算入されていないのに原告のみ独りこれを算入されるのは不公正であると謂うが、右主張を肯認するに足る証拠はなく、仮に右主張事実が存在するとしても他の議員に対する右不算入の措置を不当とするのは格別原告に対する右算入の措置を不当とするのはあたらないものというべきである。

更に原告は右のような所得金額算出につきその資料を被告自ら確保することなくこれを東川村に代行させたことは違法であると謂うが、証人野村の証言(第一回)によれば東川村はその村民の所得額算定につきすべて被告税務署側の指示に基いてその課税資料を提供し且その指示された基準に基いて所得金額の算定をいわば手伝つていたものであることが明らかであるから右主張は理由がない。

(三)  そうすると、原告の昭和三〇年度の総所得金額は前記農業所得金額五二五、九九八円と右の給与所得金額一一、八七七円を合計した金五三七、八七五円と認められ、これは本件再更正処分の総所得金額五三四、一七三円を上廻るものであるから、爾余の点を判断するまでもなく、原告の当該年度の総所得金額を金五三四、一七三円とした本件再更正処分は適法であるといわなければならない。

四、よつて、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森綱郎 小木曽競 山之内一夫)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例